2014年02月05日

無題

滑車が澄んだ高い音をたてて周り、稲荷の白い尻がちょうど私の顔の高さにまで吊り上げられた時に、その入れ墨に気付きました。
左の尻に、IN。右の尻に、RI。

「Iesus Nazarenus Rex Iudaeorum。ユダヤ人の王、ナザレのイエス」

リリスが今にも寝入ってしまいそうな微かな声で呟いて、目を閉じました。
枷で固定された稲荷の両足が、高く掲げられた尻を頂点とした美しい三角形を描いています。その頂点には金箔で装飾されたアヌス。ルシファーはそれを「全てを見通す目」と呼んでいました。そのピラミッドの冠石、黄金の一つ目を挟むように、その聖4文字が入れ墨されています。

「おかしいかい?私たちの言葉は、すべて謎掛けになっているのだよ。」

ルシファーは大きな一枚ガラスがはめられたテーブルに顔を近づけ、そこに白い砂漠のように敷き詰められた粉に顔を埋め、すん、と鋭く吸い込んでから、白い粉まみれの鼻の頭を拭こうともせずにこちらに振り向いて、にやりと笑いました。彼の大きく膨張したペニスの先端から細い銀色の糸が垂れ、床で眠りかけているリリスの乳房に落ちました。

「イエスは一つ目だ。いや、狐といったほうがいいかな。彼は春になると里に降り、赤い鳥居の下で踊る。」
「この子は諏訪の大鳥居の下で泣いていたんだ。お腹が空いているのだと思って、私たちが持ってきた稲荷寿司を食べさせた。もっとも、東京に連れ帰ってすぐに、私たちがこの子のお稲荷さんを頂くことになるのだが」

そういってルシファーは赤い蝋燭を稲荷の尻に近づけ、陰嚢の真下にかざし、聖4文字にわざとらしく接吻をしました。チリチリ、という音と毛の焼ける匂いがして、稲荷はビクっと動きましたが、また動かなくなりました。金箔で固められたアヌスがすこし収縮しました。

「三重県では稲荷寿司を炙るそうだよ。おあげの油分を適度に飛ばして、香ばしさを増すんだ。私はまだ食べたことがない。」

私は随分前からぼうっとなって、全てが夢をみているように曖昧で捉えどころがなく、寝入ってしまわないように体を起こしておくので精一杯で、それでも裸の体を包む黒い毛皮が催眠術のように肌を愛撫する感触を楽しんでいました。ふと稲荷寿司が食べたい、と思いました。

「イナンナ」いつのまにかリリスの顔がすぐ側にあり、強いアニマルノートと微かな口臭が混じった息が私の顔にかかります。

「ナンナ、イナンナ、稲荷寿司。酢飯のスメル、スメラミコト。」

リリスは舌でリズムをとりながら私の耳に呪文を吹き込み、それとは関係ない様子で気まぐれに耳たぶや耳の穴を弄びました。稲荷の金のアヌスから涙が溢れたように見えました。私は全てがデタラメに滑稽に思え、吹き出すかわりに、クリトリスを少し刺激してだらしない甘美さに沈んでいきました。もっと何か言って欲しい。もっと私の耳の穴の奥底に、巫山戯た呪文を吹き込んで欲しい。瞼が痙攣し、蝋燭の光は堪え難いまでに眩しく黒目に差し込んできます。ルシファーが自分の手でペニスをしごき、稲荷の入れ墨の上に精を放つのが見えました。そうして彼は私のほうに振返り、リリスとは反対側の耳にゆっくりと唇を近づけます。葉巻の匂い。

「太陽をあまりみつめてはいけない」
posted by bangi at 00:47| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする