バンギ・アブドゥル
「311以降の現実分離Reality Divideと散都のビジョン」
私が311以降の東京で最も鮮烈に体験したことは、放射能の恐怖でも地震の被害そのものでもなく、首都圏の人々の心理的・精神的な「現実分離」現象でした。戦後からポストバブルまで形成されてきた「日常」の認識が根底から支えを失い、全てが生死のリアリティを伴いつつ切迫して問い直されるなか、東京という都市の「合意現実Consensus Reality」は共通のコードを失い、互いが全く別の宇宙に存在しているかのような、まるで無数の島宇宙に分裂したかのような混乱した言語空間・社会空間が突如、重層的なレイヤーとして現れたのです。
ある人は唯一の日常の継続を信じ、恐怖と不安の存在そのものを拒絶して目を瞑り、またある人はあらゆる状況に懐疑を投げかけ、終末論的な自閉と弾劾の身振りを反復するなか、言語はコードとコモンセンスの節点から遊離し、深刻なディスコミュニケーション状況を生み出しています。
私はこの状況をReality Divideとして捉え、現前するリアリティの断裂面をつぶさに観察することから、可能な対処と語るべき言葉を探りたいと考えます。また、分裂した現実から無数の島宇宙のネットワークが自律的に生成され、新たな均衡状態へと移行していくプロセスを「散都」のビジョンとして描き出し、瀬戸内海に投影される新たな文明圏の可能性を提示したいと思います。
キーワード:
社会病理としての解離/生死の忘却/「みえないもの」を巡る霊的内戦状態/祭りからの再開/永続性の倫理・持続可能性と断念・時間憲法/健康優良陰謀論者の作法/広域瀬戸内海文明圏・TAZ・オノコロジー